積聚治療の基本治療について

積聚治療では精気の虚を補うために基本治療と補助治療という2つの概念を用います。

どちらも精気の虚を補う施術(※1)です。

 

積聚治療ではヒトをひとつながりの事物(太極(たいきょく)と言います)として捉えます。

そのうえで、太極のなかで色々なものが精気を原材料として加工されて生成され、また太極のなかを色々なものが精気を原動力としてぐるぐると巡り、命を生かし続けていると仮定します。ヒトは精気を呼吸と食事から生み出します。

病的な症状は原材料としての精気が不足して色々なものの生成量が不足して起こったり、またいろいろなものを流す原動力としての精気が不足しているために起こっていると積聚治療では考えます。

 

ともあれ精気の不足=精気の虚が病的な症状の原因だと考えるため、まず差し向かいで四診(※2)で精気がどれほど虚しているか、一般的な言葉で言えばどれだけ”冷え”ているかを推定していきます。特定動作で痛みが増幅される症状の場合、このとき詳しく確認します。

 

 

差し向かいでの四診を終えて精気の虚の程度を推定し終わってから基本治療を始めます。

(基本治療の初めに行う脈拍数の測定や全身の指標の確認、途中で行う腹診は四診の一種である切診です)

 

基本治療に入る前に原則として施術着に着替えていただきます(他の積聚治療の先生方では施術着を使わない方もいらっしゃいます)。基本治療ではお腹と背中全面に鍼を当てるため、男性の方はパンツだけ、女性の方もパンツとブラ以外は脱いでいただいてから施術着を着てくださると助かります。肩や腰が痛すぎて着替えるのが困難な場合は着衣のまま施術しますのでご安心ください。

 

施術着に着替えていただいたのちにベッドにあおむけに寝ていただきます。

最初に脈拍を計り、その後、頭部、顔面、首、肩、腕、腹部、腰、膝、脛、ふくらはぎ、足首、足先と身体各部の指標(※3)を確認していきます。

 

施術前の指標が確認できたのち、最初にお腹への接触鍼を行います。

刺さりにくいよう先端が丸まった鍼を用い、皮膚表面に当てるだけなので刺激は小さいです。また、患者様一人につき一本を使い捨てますので安全安心です。

この接触鍼では肋骨下から鼠径部にかけて複数個所に一瞬ずつ鍼をランダムに当てていきます。上から下に2から3周行います。

 

 

次に前腕(肘から手首の間)の肘近くの内面を圧して反応を見ます。そののちに両手首を使って脈診を行い、その脈診の結果をもって、肘近くの内面の反応が弱い方(健側と言います)の手首の特定のツボに接触鍼を行います。

 

手首への接触鍼ののち、腹診を行います。

腹診にもいろいろ流儀がありますが、積聚治療の腹診は五臓の積を診ます。

一般的な言い方をすれば

「もっとも精気が虚している部位は心身のどの部位であるか」が、腹部に表れると仮定し、腹部を圧したときの反応や硬軟、異常な動きなどを診ます。

 

腹診が終わったのちうつ伏せになっていただきます。

うつ伏せの状態で背中に2段階に分けて接触鍼を行います。

背中への最初の接触鍼は肩甲骨の間から腰に掛けて複数個所に一瞬ずつランダムに鍼を当てていきます。上から下に2から3周行います。

接触鍼を行ったら続いて腰椎2番と3番の間の高さで、背骨の中央から指の太さで4、5本程度横にずれた位置にあるツボ(志室(ししつ)といいます)を左右とも圧してどちらに違和感、あるいは圧されたときの痛みが強いかを確認します。

ここから背中への2段階目の接触鍼です。

志室の反応が弱い側に、腹診で得られた情報から4つのツボをとり、手首から得られた情報を基にその4つのツボをどのような順番で刺激するかを決めて、順番に接触鍼を行っていきます。この4つのツボへは、それぞれ指標の変化を見ながらある程度の時間を掛けて鍼を当てていきます。指標の変化を確認するためには、頭痛の訴えがあれば痛くなる動作(息を止めて踏ん張る等)、腰痛であれば股関節を動かして腰回りの筋肉を刺激するなどを行います。

 

背中への第二段階の接触鍼を4つのツボに行いきった時点で十分な指標の変化、つまり症状が良い方向へ変化したのであればまた仰向けに戻ります。ですが、指標の変化が不足している場合は症状に応じた補助治療を行います。補助治療はさまざまです。深い鍼や一瞬熱い灸、温かい灸、特定部位への接触鍼などがあります。補助治療についてはまた別途ページを作ります。

 

背中への第二段階への接触鍼及び補助治療が終わったのち、仰向けに戻っていただきます。

必要があれば仰向けでも補助治療を行います。部位によっては仰向けや横向きでないと行えない補助治療もあります。

仰向けに戻っていただいたのち、脈と肘近くの内面を圧したときの反応、腹診、必要があれば全身の指標や特定動作時の痛みがどう変化したかの確認を行います。

 

症状が良い方向へ十分に変化したのであればベッドに腰かけていただき、肩関節と首の中間位置のツボ(肩井(けんせい)といいます)の反応を見ます。肩井の反応が弱いほうに接触鍼を行って基本治療は終了です。

変化が不十分である場合、またベッドに寝ていただいて施術を追加するか、あるいは次の施術にするかを決めます。

 

 


※1 伝統鍼灸をご存知の方だと補と瀉という概念をご存知かと思います。

そのうえで、積聚治療では基本治療も補助治療も補です。瀉はありません。

積聚治療では邪気に対して鍼や灸で瀉す(=直接的に排除する)と考えるのでなく

”精気を補うことで残っている正気を増幅する”→”増幅された正気によって、被施術者の方が自力で邪気を正気でいられる場所に押し戻す手伝いをする”

言い換えると”「邪気を排除しよう」と頑張っている正気を手助けする”と考えて施術します。水路で例えると水の流れを本来の流れの方向に強めたり、あるいは弱めたり、水の流れを邪魔している異物をどかそうとしているヒトを手助けするイメージです。

この考え方の前提として

”正気”を

”本来存在する部位に、本来の流れの量と速度で存在している気”

と定義し、

”邪気”を

”本来存在しない部位に存在している気”、

あるいは、”本来存在する部位ではあるが、その流れている量が多すぎる/少なすぎる気”

あるいは、”本来の流れより速すぎる/遅すぎる気”

と定義しています。

 

 


※2 四診は問診、聞診、望診、切診の4種類の診察手法です。

すべて精気の虚と、その虚が一番強い部位はどこかを推定していくための手法です。

四診を開始するタイミングですが、患者様が治療院の扉を開けた時点で始めています。また電話で直接お話できた場合はその時点から始めています。

問診は現病歴、既往歴、社会歴、日常生活(食事、睡眠、排便の調子etc)、仕事における負荷等、患者様からお聞きして分かる情報を基に精気の虚がどの程度かを推定していきます。

聞診は患者様がお話をなさっている口調や動作時の音、体臭、息の匂いなど聴覚、嗅覚から得られる情報を基に精気の虚がどの程度かを推定していきます。

望診は患者様が治療院の入り口から入るときの歩き方、肌のキメや色、体の傾きやひねり、重心のかけ方、各種動作時の表情、動きの不自然さなど視覚から得られる情報を基に精気の虚がどの程度かを推定していきます。

 

切診はいわゆる触診です。患者様に直接触って分かる情報を基に精気の虚がどの程度かを推定していきます。施術中に行う脈診や腹診も切診の一種です。


※3 指標は精気の虚の程度を確認するための目安です。

ヒトが弱っていると、圧すと反応が出やすい部位があり、それが指標となりえます。

たとえば頭痛を訴えているヒトなら前頭部、後頭部、側頭部や耳の周囲などが指標となりえます。

特定動作で痛みがひどくなる場合は、その特定動作が指標となります。例えば腰痛の場合、股関節を曲げたり伸ばしたりすると痛みが増えたり減ったりしますので一番痛くなる動作を施術前に行って頂いて、その強さを覚えておいていただきます。五十肩なども同様に考えます。

その他、表情や呼吸の浅深、肌の色つや・きめ細かさなども指標です。

精気の虚が施術によって補われていくと指標が変化していきます。

言い換えれば指標の変化によって精気が施術によってどれだけ補われてきているか、と判断し、それによって刺激量の調節を行います。